目次
- 1. はじめに|家族信託と成年後見は「どちらが優れているか」で選ぶ制度ではありません
- 2. 家族信託は信頼できる家族に財産管理を託す仕組み
- 委託者
- 受託者
- 受益者
- 3. 家族信託が認知症対策に利用される理由
- 4. 家族信託は「本人の財産を家族にあげる制度」ではない
- 5. 判断能力が低下した本人を法律面から守る制度
- 6. 成年後見人の主な役割
- 財産管理
- 身上保護
- 7. 成年後見人は本人が自由に選べない
- 8. 成年後見人の報酬は家庭裁判所が決める
- 9. 2026年に成年後見制度の改正法が公布
- 10. 一目で分かる比較表
- 11. 違い1 始められる時期
- 12. 違い2 誰が財産を管理するか
- 13. 違い3 管理できる財産の範囲
- 14. 違い4 不動産売却の方法
- 15. 違い5 老人ホームや介護サービスの契約
- 16. 違い6 本人が結んだ契約を取り消せるか
- 17. 違い7 裁判所の監督
- 18. 違い8 財産承継への対応
- 19. 違い9 費用の発生方法
- 家族信託の費用
- 成年後見制度の費用
- 20. 家族信託が向いている可能性がある人
- 本人がまだ契約内容を理解できる
- 自宅や収益不動産を所有している
- 将来、自宅を売って老人ホーム費用に充てたい
- 本人が管理する家族を選びたい
- 障害のある家族の生活を長期的に支えたい
- 21. 成年後見制度が向いている可能性がある人
- すでに本人の判断能力が低下している
- 施設入居や介護サービスの契約代理が必要
- 本人が悪質商法の被害に遭っている
- 信託していない財産を含めた総合管理が必要
- 家族間の対立が強い
- 22. 財産管理は家族信託、身上保護は任意後見
- 23. 一人暮らしで頼れる親族が少ないケース
- 24. 収益不動産を所有しているケース
- 25. 身元保証人がいないケース
- 26. 家族信託で施設費用を確保する
- 27. 成年後見人が入居契約を支援する
- 28. 事例1 元気な父が自宅売却に備えたい
- 29. 事例2 すでに認知症が進行している母
- 30. 事例3 アパート経営を長男へ任せたい
- 31. 事例4 子どもがおらず身元保証人もいない
- 32. 家族信託と成年後見はどちらが安いですか?
- 33. 家族信託をすれば成年後見は不要ですか?
- 34. 成年後見を利用すれば家族信託は不要ですか?
- 35. 認知症と診断されたら家族信託はできませんか?
- 36. 家族信託で親の預金をすべて管理できますか?
- 37. 成年後見人は家族が選べますか?
- 38. 家族信託で実家を売却できますか?
- 39. 成年後見人は親の実家を自由に売れますか?
- 40. 家族信託で相続税は安くなりますか?
- 41. 家族信託をすれば遺言書はいりませんか?
- 42. 成年後見人は身元保証人になりますか?
- 43. 家族信託は裁判所への報告が必要ですか?
- 44. 家族信託の受託者が先に亡くなったらどうなりますか?
- 45. 家族信託と任意後見は併用できますか?
- 46. どの段階で相談すればよいですか?

はじめに|家族信託と成年後見は「どちらが優れているか」で選ぶ制度ではありません
「親の認知症に備えるなら、家族信託と成年後見のどちらがいいの?」
「家族信託をしておけば、成年後見制度は使わなくて済む?」
「親が老人ホームに入った後、実家を売却できるようにしたい」
このような疑問を持つご本人やご家族は少なくありません。
家族信託と成年後見制度は、どちらも認知症や判断能力の低下に備える方法として紹介されます。しかし、両者は目的も、始める時期も、支援できる範囲も異なります。
結論からお伝えすると、家族信託は主に財産の管理・運用・処分・承継に備える仕組みです。一方、成年後見制度は、判断能力が低下した本人の財産と生活を法律面から守る制度です。
そのため、
- 自宅や収益不動産を家族に管理してもらいたい
- 将来、実家を売却して老人ホーム費用に充てたい
- 本人が信頼する家族を財産管理者に選びたい
という場合は、家族信託が選択肢になります。
一方で、
- すでに本人の判断能力が低下している
- 老人ホームや介護サービスの契約を代理してほしい
- 悪質商法などによる不利益な契約を取り消したい
- 信託していない財産も含めて管理する必要がある
という場合は、成年後見制度が必要になる可能性があります。
法務省は、信託について、受託者が特定の目的に従い、財産の管理や処分などを行う仕組みと説明しています。また、認知症に備えた財産管理に親族間の信託が活用できることも案内しています。
本記事では、家族信託と成年後見制度の違いを、費用、不動産売却、老人ホーム入居、身元保証、相続、死後事務まで含めて解説します。
第1章 家族信託とは
家族信託は信頼できる家族に財産管理を託す仕組み
家族信託とは、自分の預貯金や不動産などを信頼できる家族へ託し、あらかじめ定めた目的に従って管理・処分・承継してもらう仕組みです。
「家族信託」は法律上の正式な制度名ではなく、家族や親族を受託者として活用する民事信託を一般的に表した呼び方です。
家族信託では、主に次の3者が登場します。
委託者
財産を託す人です。
たとえば父親が自宅と預貯金を長男へ託す場合、父親が委託者になります。
受託者
財産を託され、信託契約に従って管理する人です。
この例では長男が受託者です。
受益者
信託財産から利益を受ける人です。
認知症対策の家族信託では、父親が委託者と受益者を兼ね、長男が受託者になる設計が多く用いられます。
つまり、
- 父親が自宅や預貯金を託す
- 長男が管理する
- 財産は父親の生活・医療・介護のために使う
という形です。
法務局の資料でも、家族信託は、自分の不動産、預貯金、有価証券などを信頼できる家族や相手に託し、決められた目的に沿って管理・処分・承継する仕組みと説明されています。
家族信託が認知症対策に利用される理由
本人が認知症になり、契約内容を理解する判断能力が低下すると、不動産の売却、定期預金の解約、賃貸借契約、大規模修繕などが進めにくくなる可能性があります。
子どもであっても、親名義の不動産や預貯金を自由に処分できるわけではありません。
本人が元気なうちに家族信託契約を結び、受託者へ必要な権限を与えておけば、本人の判断能力が低下した後も、受託者が信託契約に基づいて財産管理を続けられる可能性があります。
たとえば、次のような設計が考えられます。
- 預貯金から生活費や介護費を支払う
- 自宅を維持・管理する
- 空き家になった実家を売却する
- 売却代金を老人ホーム費用に充てる
- アパートや貸家の管理を続ける
- 本人死亡後の財産承継先を定める
家族信託は「本人の財産を家族にあげる制度」ではない
家族信託で不動産を受託者名義に変更しても、受託者が自由に使える個人財産になるわけではありません。
受託者は、信託目的に従い、受益者のために財産を管理しなければなりません。
たとえば、父親の自宅を長男へ信託した場合、長男は自分の借金返済や住宅購入のために売却代金を使うことはできません。
不動産の名義が受託者へ移っても、経済的な利益を受ける権利は受益者に帰属する形を設計できます。
税務上の取扱いは、委託者、受託者、受益者の関係や承継方法によって異なります。受益者連続型信託などでは、受益権の移転時に贈与税や相続税の検討が必要になるため、契約前に税理士への確認が重要です。
第2章 成年後見制度とは
判断能力が低下した本人を法律面から守る制度
成年後見制度は、認知症、知的障害、精神障害などによって、一人で契約や財産管理を行うことが難しい人を法律的に支援する制度です。
現行の法定後見制度は、本人の判断能力の程度に応じて、後見、保佐、補助の3類型に分かれています。
家庭裁判所が本人の状況を確認し、成年後見人、保佐人、補助人などを選任します。申立書に家族を候補者として記載しても、その家族が必ず選任されるわけではありません。事案によっては、弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門職が選任されます。
成年後見人の主な役割
成年後見人等の仕事は、大きく分けて「財産管理」と「身上保護」です。
財産管理
- 預貯金の管理
- 年金や家賃収入の確認
- 医療費・介護費・施設費の支払い
- 税金や公共料金の支払い
- 不動産の管理
- 相続手続き
- 家庭裁判所への報告
身上保護
- 介護サービス契約
- 老人ホームの入居契約
- 医療・福祉関係の契約
- 本人の生活状況の確認
- ケアマネジャーや施設との連絡調整
ただし、成年後見人が食事、入浴、排せつ介助などの実際の介護を行う制度ではありません。
成年後見人は本人が自由に選べない
家族信託では、本人が元気なうちに受託者を選べます。
一方、法定後見制度では、成年後見人等を決定するのは家庭裁判所です。
家族を候補者として申立てても、
- 本人の財産額が大きい
- 親族間に対立がある
- 不動産売却や遺産分割が必要
- 本人と候補者の間に金銭関係がある
- 専門的な法律事務が必要
といった場合には、専門職が選任される可能性があります。
また、希望した候補者が選任されなかったことだけを理由に、不服申立てをすることはできません。
成年後見人の報酬は家庭裁判所が決める
成年後見人等が本人の財産から報酬を受け取るには、家庭裁判所へ報酬付与の申立てを行い、審判を受ける必要があります。
専門職後見人の報酬だけでなく、親族後見人が報酬を受ける場合も、家庭裁判所の審判が必要です。
2026年に成年後見制度の改正法が公布
2026年6月24日、成年後見制度の見直しを含む改正法が公布されました。
改正法では、現行の後見・保佐を廃止し、補助制度へ一元化したうえで、本人に必要な範囲で代理権や取消権を設定できる仕組みへ改めることが予定されています。
成年後見制度に関する改正部分は、公布日から2年6か月以内の政令で定める日に施行されます。そのため、現時点では、原則として現行の後見・保佐・補助制度が適用されています。
本記事では、2026年7月時点で運用されている現行制度を前提に説明します。
第3章 家族信託と成年後見の違いを比較
一目で分かる比較表
| 比較項目 | 家族信託 | 成年後見制度 |
|---|---|---|
| 主な目的 | 財産管理・運用・処分・承継 | 本人の権利・財産・生活の保護 |
| 利用する時期 | 原則として判断能力があるうち | 判断能力が低下した後でも利用可能 |
| 管理する人 | 本人が受託者を選ぶ | 家庭裁判所が後見人等を選ぶ |
| 対象財産 | 信託契約で指定した財産 | 原則として本人の財産全般 |
| 不動産売却 | 契約で権限を定められる | 居住用不動産は裁判所の許可が必要な場合あり |
| 預貯金管理 | 信託した金銭のみ | 本人の財産全般を管理 |
| 老人ホーム契約 | 原則として法定代理権なし | 代理できる場合がある |
| 介護サービス契約 | 原則として対応しない | 身上保護として対応可能 |
| 本人の契約取消し | 原則としてできない | 類型・権限に応じて可能 |
| 裁判所の監督 | 原則として常時監督なし | 家庭裁判所の監督あり |
| 財産承継 | 契約で一定の設計が可能 | 本人死亡により後見事務は原則終了 |
| 身元保証 | 対応しない | 後見人が当然に保証人になるわけではない |
| 死後事務 | 契約設計によるが万能ではない | 原則として本人死亡で権限終了 |
| 費用 | 設計・公正証書・登記等の初期費用 | 申立費用・後見人報酬等 |
| 柔軟性 | 財産管理を比較的柔軟に設計 | 本人保護を優先し一定の制約あり |
違い1 始められる時期
家族信託は、本人が契約内容を理解できるうちに契約する必要があります。
認知症と診断されたから必ず契約できないわけではありませんが、
- どの財産を託すのか
- 誰を受託者にするのか
- どのような権限を与えるのか
- 誰のために財産を使うのか
を理解できなければ、有効な契約を結ぶことは難しくなります。
一方、成年後見制度は、すでに判断能力が低下した後でも利用を申し立てられます。
したがって、「親が元気なうちに準備する制度」が家族信託、「判断能力が低下した後に本人を保護する制度」が成年後見と整理すると分かりやすいでしょう。
違い2 誰が財産を管理するか
家族信託では、本人が信頼する家族を受託者に選べます。
たとえば、
- 長男
- 長女
- 甥や姪
- 信頼できる親族
などです。
一方、法定後見制度では、家庭裁判所が成年後見人等を決めます。
本人や家族が希望する人と、実際に選任される人が異なることがあります。
違い3 管理できる財産の範囲
家族信託で管理できるのは、信託契約の対象とした財産です。
たとえば、自宅と預貯金1,000万円だけを信託した場合、信託していない金融商品や別の不動産まで受託者が自由に管理できるわけではありません。
成年後見人は、原則として本人の財産全般を把握し、管理します。
預貯金、不動産、保険、年金収入、支出などを確認し、家庭裁判所へ報告します。
違い4 不動産売却の方法
家族信託では、信託契約書に不動産の売却権限を明確に定めておけば、本人の判断能力が低下した後も、受託者が売却できる可能性があります。
たとえば、父親が老人ホームへ入居し、実家が空き家になった場合、長男が受託者として実家を売却し、その代金を施設費や介護費に充てる設計が考えられます。
成年後見制度の場合、後見人等が本人の代理人として不動産を売却します。
ただし、本人が居住していた自宅などを処分する場合は、家庭裁判所の許可が必要になることがあります。
家族信託は不動産管理や売却に柔軟性がありますが、契約書の権限が不十分だったり、登記や金融機関との調整ができていなかったりすると、予定どおり売却できない可能性があります。
違い5 老人ホームや介護サービスの契約
家族信託の受託者は、信託財産を管理する人です。
受託者だからといって、本人の老人ホーム入居契約、介護サービス契約、病院との契約について、当然に法定代理権を持つわけではありません。
本人が契約内容を理解できず、法的代理人が必要であれば、成年後見制度を検討する必要があります。
成年後見人等は、身上保護の一環として、本人に必要な介護サービスや施設入居の契約を行える場合があります。
この点は、家族信託と成年後見の大きな違いです。
違い6 本人が結んだ契約を取り消せるか
家族信託の受託者には、本人が信託財産以外について行った契約を取り消す一般的な権限はありません。
たとえば、本人が高額な訪問販売契約を結んだ場合、家族信託をしているだけでは、その契約を受託者が当然に取り消せるわけではありません。
成年後見制度では、本人の判断能力の程度や付与された権限に応じて、一定の法律行為について取消権が認められます。
悪質商法や詐欺的契約から本人を守るという点では、成年後見制度の方が対応しやすい場合があります。
違い7 裁判所の監督
家族信託は、原則として家庭裁判所へ定期報告をする仕組みではありません。
柔軟に管理できる一方で、受託者の行動を常に裁判所が監督するわけではありません。
そのため、受託者による使い込みや不透明な管理を防ぐには、
- 信託監督人を置く
- 受益者代理人を指定する
- 定期的に帳簿を開示する
- 兄弟へ管理状況を報告する
- 重要な売却時に同意を求める
などの対策が必要です。
成年後見制度では、後見人等が本人の財産状況や収支を家庭裁判所へ報告し、裁判所の監督を受けます。
柔軟性は低くなる一方、第三者によるチェックがあることが特徴です。
違い8 財産承継への対応
家族信託では、本人死亡後の受益者や残余財産の帰属先を、契約で一定程度設計できます。
たとえば、
- 父親の存命中は父親のために財産を使用
- 父親死亡後は母親の生活費に使用
- 母親死亡後は子どもへ承継
という設計が検討されます。
ただし、遺留分、税務、信託法上の制限、家族間の公平性を確認する必要があります。
成年後見制度は、本人を生前に保護する制度です。本人が死亡すると、後見人の権限は原則として終了し、財産は相続手続きへ移ります。
違い9 費用の発生方法
家族信託の費用
家族信託では、最初にまとまった費用がかかる傾向があります。
- 専門家への相談・設計費用
- 信託契約書作成費用
- 公正証書作成費用
- 不動産の信託登記費用
- 登録免許税
- 司法書士報酬
- 税理士への相談費用
- 信託監督人などの継続費用
成年後見制度の費用
成年後見制度では、
- 申立手数料
- 登記費用
- 郵便切手
- 診断書費用
- 必要に応じた鑑定費用
- 成年後見人等の報酬
がかかります。
家族信託は初期費用が中心、成年後見制度は申立費用に加えて、後見人報酬が継続する可能性がある点が大きな違いです。
ただし、どちらが安いかは、財産額、管理期間、不動産の数、専門職の関与などによって変わります。
第4章 家族信託が向いている人・成年後見が向いている人
家族信託が向いている可能性がある人
本人がまだ契約内容を理解できる
家族信託は、本人の判断能力があるうちに契約する必要があります。
「最近少し物忘れがある」という段階でも、早めに相談することが重要です。
自宅や収益不動産を所有している
不動産の管理・修繕・賃貸・売却を将来家族へ任せたい方は、家族信託が有力な選択肢になります。
将来、自宅を売って老人ホーム費用に充てたい
本人が老人ホームへ入居した後、空き家となった自宅を売却し、売却代金を施設費へ充てる設計ができます。
本人が管理する家族を選びたい
「長男に任せたい」「娘に財産を管理してもらいたい」など、本人が管理者を指定したい場合に向いています。
障害のある家族の生活を長期的に支えたい
親が亡くなった後も、障害のある子どもの生活費を管理する仕組みとして、家族信託を検討することがあります。
成年後見制度が向いている可能性がある人
すでに本人の判断能力が低下している
本人が家族信託契約を理解できない状態では、家族信託を新たに契約することは困難です。
その場合、成年後見制度を検討します。
施設入居や介護サービスの契約代理が必要
本人が契約できず、家族にも代理権がない場合は、成年後見人等による契約が必要になる可能性があります。
本人が悪質商法の被害に遭っている
本人が繰り返し不要な契約を結んでしまう場合、取消権を持つ成年後見人等による保護が必要になることがあります。
信託していない財産を含めた総合管理が必要
本人の預貯金、不動産、保険、年金、負債など、財産全般の管理が必要な場合は成年後見制度が適しています。
家族間の対立が強い
親族の一人へ財産管理を任せると争いになるケースでは、家庭裁判所が選任する専門職後見人の方が適切な場合があります。
第5章 家族信託と成年後見を併用した方がよいケース
財産管理は家族信託、身上保護は任意後見
家族信託と成年後見は、どちらか一方だけを選ばなければならないわけではありません。
本人が元気なうちに、
- 不動産や預貯金の管理は家族信託
- 施設入居や介護契約は任意後見
- 葬儀や納骨は死後事務委任契約
- 財産承継は遺言書
というように、役割を分けて準備する方法があります。
一人暮らしで頼れる親族が少ないケース
一人暮らしの高齢者で、財産管理を任せられる親族はいるものの、日常生活の支援や施設入居、緊急対応まで任せられない場合があります。
その場合は、
- 家族信託
- 任意後見
- 身元保証
- 見守り契約
- 死後事務委任契約
を組み合わせることが考えられます。
収益不動産を所有しているケース
アパートや貸家を所有している方は、財産管理が複雑です。
家族信託で、
- 家賃の受領
- 修繕
- 管理会社との契約
- 建替え
- 売却
を受託者へ任せます。
一方で、本人の老人ホーム入居や介護契約については、任意後見や法定後見が必要になる可能性があります。
身元保証人がいないケース
家族信託や成年後見制度を利用しても、老人ホームや病院が求める身元保証人や連帯保証人が自動的に確保されるわけではありません。
成年後見人も、その立場だけで個人的な保証債務を負う義務はありません。
そのため、頼れる親族がいない方は、身元保証サービスを別に検討する必要があります。
第6章 老人ホーム入居との関係
家族信託で施設費用を確保する
家族信託では、信託した預貯金や不動産の売却代金を、本人の老人ホーム費用へ充てる設計ができます。
具体的には、
- 入居一時金
- 月額利用料
- 医療費
- 介護費
- 日用品費
- 自宅の維持管理費
などに使用します。
成年後見人が入居契約を支援する
本人が施設入居契約の内容を理解できない場合、成年後見人等が本人の代理人として契約することがあります。
ただし、施設が求める連帯保証人、身元引受人、緊急連絡先まで、成年後見人が当然に引き受けるわけではありません。
老人ホーム入居を考える際は、
- 入居契約を誰が行うか
- 費用を誰が管理するか
- 身元保証人は誰か
- 緊急連絡先は誰か
- 亡くなった後の手続きを誰が行うか
を分けて考える必要があります。
第7章 相談事例で見る制度の選び方
事例1 元気な父が自宅売却に備えたい
80歳の父親が一人暮らしをしています。
現時点では判断能力に問題はありませんが、将来老人ホームへ入居した場合は、自宅を売却して入居費用へ充てたいと考えています。
このケースでは、
- 父親を委託者兼受益者
- 長男を受託者
- 自宅と一定の預貯金を信託財産
とする家族信託が選択肢になります。
同時に、施設入居などの契約に備えて任意後見、亡くなった後の手続きに備えて死後事務委任契約も検討します。
事例2 すでに認知症が進行している母
母親の認知症が進み、銀行での手続きや老人ホームの契約内容を理解できません。
自宅を売却して施設費用を確保したい状況です。
本人が家族信託契約を理解できない場合、新たな家族信託の締結は困難です。
このケースでは、家庭裁判所へ成年後見等の申立てを行い、選任された後見人等が不動産売却を進める方法を検討します。
居住用不動産に該当する場合は、家庭裁判所の許可が必要になる可能性があります。
事例3 アパート経営を長男へ任せたい
父親がアパートを複数所有しています。
将来の認知症に備え、家賃管理、修繕、賃貸借契約、売却を長男へ任せたいと考えています。
この場合は、家族信託により収益不動産を信託し、長男へ管理権限を与える方法が考えられます。
ただし、
- 既存の融資
- 抵当権
- 金融機関の承諾
- 所得税
- 相続税
- 不動産所得の申告
について、事前確認が必要です。
事例4 子どもがおらず身元保証人もいない
本人は元気ですが、一人暮らしで子どもはいません。
財産管理だけでなく、老人ホーム入居、緊急連絡先、葬儀、納骨まで不安を抱えています。
このケースでは、家族信託だけでは十分ではありません。
- 財産管理委任契約
- 任意後見契約
- 見守り契約
- 身元保証契約
- 死後事務委任契約
- 遺言書
などを総合的に組み合わせる必要があります。
よくある質問
家族信託と成年後見はどちらが安いですか?
一概には比較できません。
家族信託は契約設計、公正証書、不動産登記などの初期費用がかかります。
成年後見制度は申立費用に加え、専門職後見人等が選任された場合、本人の財産から継続的に報酬が支払われる可能性があります。
利用期間や財産内容によって総額は変わります。
家族信託をすれば成年後見は不要ですか?
必ずしも不要にはなりません。
家族信託は信託した財産の管理には有効ですが、施設入居契約、身上保護、信託していない財産の管理、本人が結んだ契約の取消しには対応できない場合があります。
成年後見を利用すれば家族信託は不要ですか?
成年後見制度を利用すれば本人の財産や生活を法律面から保護できます。
ただし、本人の希望に沿った積極的な財産運用や、次の世代まで含めた承継設計には制約があります。
本人が元気なうちであれば、家族信託や任意後見を先に検討する意味があります。
認知症と診断されたら家族信託はできませんか?
診断名だけで決まるわけではありません。
本人が契約内容を理解し、自分の意思で契約できるかが重要です。
判断能力を確認できない状態では契約できません。
家族信託で親の預金をすべて管理できますか?
信託契約の対象とし、適切に信託口座等へ移した金銭を管理します。
年金受給権や本人名義で残る口座など、すべてを自由に信託できるわけではありません。
成年後見人は家族が選べますか?
候補者を記載することはできますが、最終的に選任するのは家庭裁判所です。
希望した家族が必ず選ばれるわけではありません。
家族信託で実家を売却できますか?
信託契約書で受託者へ売却権限を与え、不動産の信託登記を行っていれば、売却できる可能性があります。
契約内容、登記、金融機関、税務などを確認する必要があります。
成年後見人は親の実家を自由に売れますか?
自由には売れません。
売却が本人の利益になることが必要です。
本人の居住用不動産を処分する場合は、家庭裁判所の許可が必要になることがあります。
家族信託で相続税は安くなりますか?
家族信託を利用しただけで、当然に相続税が安くなるわけではありません。
家族信託の主な目的は、財産管理と承継です。
税務については、受益者や承継方法に応じて税理士へ確認する必要があります。
家族信託をすれば遺言書はいりませんか?
信託していない財産がある場合や、遺言執行、祭祀、遺留分などを考える場合は、遺言書を併用した方がよいケースがあります。
成年後見人は身元保証人になりますか?
成年後見人であることだけを理由に、施設や病院の連帯保証人になる義務はありません。
成年後見と身元保証は別の仕組みです。
家族信託は裁判所への報告が必要ですか?
一般的な家族信託では、家庭裁判所への定期報告は原則としてありません。
その分、家族内での報告方法や監督体制を契約時に整える必要があります。
家族信託の受託者が先に亡くなったらどうなりますか?
後継受託者を契約で定めておく必要があります。
受託者が死亡、認知症、病気などで管理できなくなる事態を想定した設計が重要です。
家族信託と任意後見は併用できますか?
併用できます。
財産管理を家族信託、身上保護や契約代理を任意後見へ分ける方法があります。
どの段階で相談すればよいですか?
本人が元気で、家族と将来の希望を話し合える段階が適しています。
「まだ早い」と思う時期ほど選択肢が多く残っています。
まとめ|財産管理なら家族信託、本人の生活保護まで必要なら成年後見
家族信託と成年後見制度の最も大きな違いは、目的と開始時期です。
家族信託は、本人が元気なうちに、信頼する家族へ特定の財産管理を託す仕組みです。
成年後見制度は、判断能力が低下した本人の財産と生活を、家庭裁判所の監督のもとで保護する制度です。
家族信託が向いているのは、
- 不動産や預貯金を家族に管理してもらいたい
- 将来自宅を売却して老人ホーム費用に充てたい
- 本人が管理者を選びたい
- 財産承継まで一定程度設計したい
というケースです。
成年後見制度が必要になりやすいのは、
- すでに判断能力が低下している
- 施設入居や介護サービスの契約代理が必要
- 本人が不利益な契約を繰り返している
- 財産全般を総合的に管理する必要がある
というケースです。
ただし、家族信託と成年後見制度のどちらか一つで、高齢期のすべての問題が解決するわけではありません。
実際には、
- 家族信託
- 任意後見
- 法定後見
- 老人ホーム紹介
- 身元保証
- 遺言
- 相続
- 不動産売却
- 死後事務委任
を、ご本人の状況に合わせて組み合わせることが大切です。
ご相談|家族信託・成年後見・老人ホーム・身元保証をまとめて整理します
一般社団法人東京都社会福祉支援センターでは、高齢者ご本人とご家族からの幅広いご相談を承っています。
- 家族信託・財産管理
- 成年後見制度
- 任意後見
- 老人ホーム紹介
- 身元保証・身元引受
- 認知症の親の不動産売却
- 相続・遺言
- 死後事務
- 空き家・残置物整理
「家族信託と成年後見のどちらが合っているのか分からない」
「親が元気なうちに準備しておきたい」
「老人ホームへの入居と実家売却をまとめて相談したい」
「身元保証や死後事務まで頼める人がいない」
このような段階からご相談いただけます。
制度ありきで考えるのではなく、ご本人の判断能力、財産、住まい、家族構成、将来の希望を整理し、必要な支援を一緒に考えることが重要です。
※具体的な信託契約、登記、税務、成年後見申立てなどについては、弁護士、司法書士、税理士等との連携・確認が必要です。
当団体は東京都指定居住支援法人です
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