目次
- 1. はじめに
- 2. 家族信託の基本的な意味
- 委託者
- 受託者
- 受益者
- 3. 家族信託で財産の所有権はどうなる?
- 4. 家族信託と単なる名義変更は違う
- 5. 認知症になると財産管理が難しくなる
- 6. 元気なうちに管理方法を決められる
- 7. 不動産を売却できるように備えられる
- 8. 収益不動産の管理を続けられる
- 9. 家族信託でできる主なこと
- 預貯金の管理
- 不動産の管理
- 不動産の売却
- 財産承継先の指定
- 障害のある家族の生活支援
- 10. 家族信託でできない主なこと
- 身上保護
- 本人が行った契約の取消し
- すべての財産の管理
- 年金受給権そのものの信託
- 介護そのもの
- 身元保証や連帯保証
- 死後事務
- 11. 主な違い
- 12. 家族信託の方が成年後見より優れている?
- 13. 家族信託は認知症になってからでも契約できる?
- 14. メリット1 認知症後も財産管理を継続しやすい
- 15. メリット2 本人が管理する人を選べる
- 16. メリット3 不動産の管理・売却に備えられる
- 17. メリット4 財産承継を柔軟に設計できる
- 18. メリット5 裁判所への定期報告が原則不要
- 19. デメリット1 受託者の負担が大きい
- 20. デメリット2 家族間の争いが起きる可能性がある
- 21. デメリット3 すべての金融機関が同じ対応ではない
- 22. デメリット4 信託できない財産がある
- 23. デメリット5 専門家の知識に差がある
- 24. デメリット6 契約しただけでは終わらない
- 25. 専門家への相談・設計費用
- 26. 契約書作成費用
- 27. 公正証書作成費用
- 28. 不動産登記費用
- 29. 税理士費用
- 30. 継続的な管理費用
- 31. 1.家族の状況を整理する
- 32. 2.家族で話し合う
- 33. 3.専門家へ相談する
- 34. 4.契約内容を設計する
- 35. 5.金融機関・税務を確認する
- 36. 6.信託契約を締結する
- 37. 7.不動産登記や口座準備を行う
- 38. 8.信託を運用する
- 39. 家族信託で老人ホーム費用を管理できる
- 40. 家族信託だけでは入居契約を代理できないことがある
- 41. 身元保証人は別に必要
- 42. 家族信託が向いている可能性がある人
- 43. 家族信託が向いていない可能性がある人
- 44. 家族信託は誰に頼めばよいですか?
- 45. 家族信託は自分で作れますか?
- 46. 家族信託をすれば相続税が安くなりますか?
- 47. 家族信託をすると贈与税がかかりますか?
- 48. 家族信託をすれば遺言書は不要ですか?
- 49. 家族信託をすれば成年後見は絶対に不要ですか?
- 50. 受託者が先に亡くなったらどうなりますか?
- 51. 受託者が財産を使い込んだらどうなりますか?
- 52. 住宅ローンが残っていても家族信託できますか?
- 53. 認知症と診断された後でも家族信託できますか?
- 54. 家族信託契約は途中で変更できますか?
- 55. 家族信託を終了することはできますか?

はじめに
「親が認知症になったら、銀行預金や実家はどうなるの?」
「子どもが親の代わりに財産を管理できるようにしておきたい」
「老人ホームの入居費用が必要になったとき、実家を売却できるようにしておきたい」
このような不安を持つご本人やご家族から、近年よく聞かれるようになった言葉が家族信託です。
家族信託は、将来の認知症や判断能力の低下に備え、預貯金や不動産などの財産管理を、信頼できる家族へ託しておく仕組みです。
法務省も、認知症などに備えた財産管理を行う場面で、親族間の信託が活用できることを案内しています。一般に「家族信託」と呼ばれるものは法律上の正式な制度名ではなく、信託法に基づき家族や親族を受託者として設定する民事信託の通称です。
ただし、家族信託を契約すれば、認知症、老人ホーム入居、身元保証、介護、相続、死後事務に関する問題がすべて解決するわけではありません。
家族信託が主に対応するのは、信託した財産の管理・運用・処分・承継です。
そのため、家族信託を検討するときは、
- 何のために家族信託を利用するのか
- どの財産を信託するのか
- 誰に管理を任せるのか
- 成年後見制度との違いは何か
- 老人ホームや身元保証の問題をどうするのか
- 相続発生後に財産をどう引き継ぐのか
まで、家族全体の将来を見据えて設計する必要があります。
この記事では、家族信託の仕組み、メリットとデメリット、費用、手続き、不動産売却、成年後見制度との違い、老人ホーム入居との関係まで、初めての方にも分かりやすく解説します。
第1章 家族信託とはどのような制度?
家族信託の基本的な意味
家族信託とは、自分が所有する財産を信頼できる家族などへ託し、あらかじめ決めた目的に従って管理、運用、処分、承継してもらう仕組みです。
法務局が公開する資料でも、家族信託は、自分の不動産、預貯金、有価証券などを信頼できる家族や相手へ託し、特定の人のために、定められた目的に従って管理・処分・承継する仕組みとして説明されています。
家族信託では、主に次の3つの立場が登場します。
委託者
財産を託す人です。
たとえば、認知症対策として父親が自宅や預貯金を信託する場合、父親が委託者になります。
受託者
財産を託され、信託契約の内容に従って管理する人です。
父親が長男へ財産管理を任せる場合、長男が受託者になります。
受益者
信託財産から利益を受ける人です。
認知症対策で利用する一般的な家族信託では、父親が委託者であり、同時に受益者となる形が多く見られます。
つまり、
- 父親が財産を託す
- 長男が管理する
- 財産から得られる利益は父親の生活や介護のために使う
という設計です。
家族信託で財産の所有権はどうなる?
家族信託を行うと、信託財産は受託者名義で管理されます。
ただし、受託者が自分のために自由に使える財産になるわけではありません。
受託者は、信託契約で定められた目的に従い、受益者のために財産を管理します。
たとえば、父親名義の自宅を長男へ信託した場合、不動産登記上は受託者である長男の名義へ変更されますが、長男の個人的な財産として取得するわけではありません。
不動産登記簿には、信託による所有権移転であることや信託目録が記録されます。
長男は、父親の生活費、介護費、老人ホーム費用などに充てるため、信託契約の範囲内で不動産を管理・処分します。
家族信託と単なる名義変更は違う
家族信託を単なる名義変更だと考えるのは危険です。
贈与として子どもへ不動産の所有権を移す場合、財産そのものが子どものものになります。
一方、家族信託では、財産の管理権限を受託者へ移しながら、経済的な利益を受ける権利は受益者に残す設計が可能です。
税務上も、一般的な受益者等課税信託では、信託財産に属する資産・負債や収益・費用は、原則として受益者に帰属するものとして取り扱われます。
ただし、委託者と受益者が異なる場合や、受益権を無償で移転する場合などは、贈与税や相続税の検討が必要になる可能性があります。
契約内容によって課税関係が変わるため、司法書士や弁護士だけでなく、信託税務に詳しい税理士へ確認することが重要です。
第2章 家族信託が認知症対策として注目される理由
認知症になると財産管理が難しくなる
認知症になっても、直ちにすべての契約ができなくなるわけではありません。
重要なのは、本人が契約内容やその結果を理解して判断できるかどうかです。
しかし、判断能力が大きく低下すると、次のような手続きが難しくなる可能性があります。
- 定期預金の解約
- 金融商品の売却
- 不動産の売却
- 賃貸借契約
- 大規模修繕の契約
- 遺言書の作成
- 生前贈与
- 家族信託契約の締結
家族であっても、本人の財産を当然に自由に処分できるわけではありません。
本人名義の財産は、本人のものだからです。
判断能力が低下してから法的な財産管理が必要になった場合には、成年後見制度の利用を検討することになります。
成年後見制度では、家庭裁判所が後見人等を選任し、後見人は財産目録や収支状況を裁判所へ報告しながら本人の財産を管理します。
元気なうちに管理方法を決められる
家族信託の大きな特徴は、本人に判断能力があるうちに、将来の財産管理方法を自分で決められることです。
たとえば、父親が次のような希望を持っているとします。
- 自宅にはできる限り住み続けたい
- 介護が必要になったら老人ホームへ入りたい
- 老人ホーム費用が不足したら自宅を売却してほしい
- 売却代金は自分の生活費や介護費に使ってほしい
- 自分が亡くなった後は、残った財産を妻と子どもへ引き継いでほしい
判断能力が十分なうちに、この希望を信託契約へ反映しておけば、将来認知症になった後も、受託者が契約内容に従って管理を続けられる可能性があります。
不動産を売却できるように備えられる
家族信託が特に活用されるのが不動産です。
親が老人ホームへ入居した後、実家が空き家になるケースがあります。
しかし、親の判断能力が失われていると、本人名義の自宅を家族が勝手に売却することはできません。
あらかじめ家族信託で不動産を信託し、受託者に売却権限を与えておけば、本人の判断能力が低下した後も、受託者が契約に従って売却できる可能性があります。
売却代金についても信託財産として管理し、本人の老人ホーム費用、医療費、介護費、生活費などへ充てられます。
収益不動産の管理を続けられる
アパート、マンション、貸家、駐車場などの収益不動産を所有する方にも、家族信託が利用されることがあります。
賃貸不動産では、次のような管理業務が発生します。
- 賃貸借契約の締結・更新
- 家賃の受領
- 修繕工事
- 管理会社との契約
- 入居者への対応
- 固定資産税や修繕費の支払い
- 建替えや売却の判断
所有者本人の判断能力が低下すると、修繕や売却などの契約が進めにくくなる場合があります。
家族信託によって管理権限を家族へ移しておけば、賃貸経営を継続しやすくなります。
第3章 家族信託でできること・できないこと
家族信託でできる主なこと
契約内容によって異なりますが、一般的には次のような財産管理を設計できます。
預貯金の管理
信託専用の口座等を用いて、受託者が財産を分別管理します。
そのお金から、
- 生活費
- 医療費
- 介護費
- 老人ホーム費用
- 自宅の維持費
- 税金
などを支払う設計が可能です。
ただし、すべての銀行が家族信託専用口座に同じ対応をしているわけではありません。
契約を作る前に、利用予定の金融機関へ取扱いを確認する必要があります。
不動産の管理
受託者が、信託契約の範囲内で不動産を管理できます。
- 賃貸
- 修繕
- 管理会社との契約
- 家賃の受領
- 固定資産税の支払い
- 売却
などを行えるよう設計することがあります。
不動産の売却
受託者へ処分権限を与えることで、本人の判断能力が低下した後も、契約条件に従って売却できる可能性があります。
ただし、実際の売却時には、信託契約書の権限、登記内容、本人の居住状況、受益者の利益などを確認する必要があります。
財産承継先の指定
委託者兼受益者が死亡した後、受益権や残余財産を誰へ承継するかを契約で定められる場合があります。
遺言とは異なる方法で、一定の財産承継を設計できることが家族信託の特徴です。
障害のある家族の生活支援
親が亡くなった後も、障害のある子どもの生活費を継続して支払うような設計に利用されることがあります。
ただし、受託者、後継受託者、信託監督人、受益者代理人などを適切に設定しなければ、長期管理が不安定になる可能性があります。
家族信託でできない主なこと
家族信託は財産管理の制度であり、すべての高齢者支援を代行する制度ではありません。
身上保護
家族信託の受託者には、当然に次のような法定代理権が与えられるわけではありません。
- 介護サービス契約
- 老人ホーム入居契約
- 医療機関との契約
- 要介護認定の手続き
- 住居の確保
これらの身上保護を家族が問題なく支援できるケースもありますが、本人の判断能力が低下し、法的代理権が必要になれば成年後見制度が必要になる可能性があります。
本人が行った契約の取消し
法定後見制度には、本人が行った一定の法律行為について取消権が認められる場合があります。
一方、家族信託の受託者には、本人が信託財産以外について締結した契約を取り消す一般的な権限はありません。
そのため、認知症になった本人が悪質商法や詐欺的契約の被害に遭うリスクまで、家族信託だけで防げるとは限りません。
すべての財産の管理
家族信託の対象になるのは、原則として契約で信託財産として定めた財産です。
信託していない預金、年金受取口座、保険、動産などは、受託者が当然に管理できるわけではありません。
年金受給権そのものの信託
年金を受け取る権利そのものを自由に家族信託へ移せるわけではありません。
年金は原則として本人名義の口座で受領し、必要に応じて信託財産へ移す方法などを検討します。
金融機関や専門家へ事前に確認してください。
介護そのもの
受託者だからといって、食事、排せつ、入浴、通院同行などの介護を行う法律上の義務が当然に発生するわけではありません。
家族信託は、介護サービスを提供する契約ではありません。
身元保証や連帯保証
家族信託を契約しても、老人ホームや病院が求める身元保証人、連帯保証人、緊急連絡先が自動的に確保されるわけではありません。
家族信託と身元保証は別の仕組みです。
死後事務
葬儀、火葬、納骨、行政届出、住居の明渡し、公共料金の解約などは、信託契約だけでは十分に対応できないことがあります。
死後事務委任契約などを別に検討する必要があります。
第4章 家族信託と成年後見制度の違い
家族信託と成年後見制度は、どちらも認知症対策として紹介されますが、役割が異なります。
主な違い
| 項目 | 家族信託 | 成年後見制度 |
|---|---|---|
| 主な目的 | 財産管理・運用・処分・承継 | 本人の権利・財産・生活の保護 |
| 開始時期 | 原則として判断能力があるうち | 判断能力低下後でも申立て可能 |
| 管理する人 | 本人が契約で決める | 家庭裁判所が選任 |
| 対象財産 | 信託契約で指定した財産 | 原則として本人の財産全般 |
| 裁判所の関与 | 通常は常時監督なし | 家庭裁判所への報告・監督あり |
| 不動産売却 | 契約で権限を設定可能 | 居住用不動産は許可が必要な場合あり |
| 身上保護 | 原則として対応しない | 介護・施設契約等に対応可能 |
| 取消権 | 原則なし | 類型により認められる |
| 相続後の承継 | 契約で一定の設計が可能 | 原則として死亡により職務終了 |
成年後見制度は、家庭裁判所が選任した後見人等が、財産管理や身上保護を行う制度です。裁判所の後見ポータルでは、後見・保佐・補助の利用案内や、後見人の財産報告に関する書式などが公開されています。
家族信託の方が成年後見より優れている?
一概には言えません。
家族信託は、本人の希望に沿って柔軟な財産管理を設計しやすいことが特徴です。
一方、成年後見制度には、
- 本人の法律行為を取り消せる場合がある
- 信託していない財産も含めて管理できる
- 老人ホームや介護サービスの契約を代理できる
- 裁判所の監督がある
といった役割があります。
財産管理は家族信託、身上保護は任意後見や法定後見というように、両方を組み合わせるケースもあります。
家族信託は認知症になってからでも契約できる?
本人に契約内容を理解し、判断できる能力があれば契約できる可能性はあります。
認知症と診断されたことだけで、直ちに契約が不可能になるわけではありません。
ただし、本人が、
- 誰に財産を託すのか
- どの財産を信託するのか
- 受託者にどのような権限を与えるのか
- 将来誰へ財産を承継するのか
を理解できない状態では、有効な契約を結ぶことが難しくなります。
医師の診断、面談時の受け答え、公証人や専門家による意思確認などを踏まえ、個別に判断する必要があります。
「少し物忘れが増えたけれど、まだ大丈夫」と思っている間に相談することが重要です。
第5章 家族信託のメリット
メリット1 認知症後も財産管理を継続しやすい
家族信託を適切に設定しておけば、本人の判断能力が低下した後も、受託者が信託契約に基づいて財産管理を続けられます。
親名義の財産が動かせなくなる、いわゆる「資産凍結」への備えとして活用されます。
ただし、信託していない財産や、受託者に権限を与えていない手続きには対応できません。
メリット2 本人が管理する人を選べる
成年後見人等は家庭裁判所が選任します。
候補者として家族を挙げることはできますが、必ず希望した家族が選任されるとは限りません。
家族信託では、本人に判断能力があるうちに、信頼できる家族を受託者として選べます。
ただし、信頼できることと、財産管理能力があることは別です。
受託者には、帳簿作成、口座管理、税金の支払い、不動産管理などの責任が生じるため、実務を継続できる人を選ぶ必要があります。
メリット3 不動産の管理・売却に備えられる
将来、老人ホーム費用や介護費用が必要になった場合に、自宅を売却できるように設計できます。
また、収益不動産について、賃貸、修繕、建替え、売却などの権限を受託者へ与えることも検討できます。
メリット4 財産承継を柔軟に設計できる
家族信託では、最初の受益者が亡くなった後の受益者を定めるなど、一定の範囲で承継先を設計できます。
たとえば、
- 父親が存命中は父親の生活に使用
- 父親の死亡後は母親の生活に使用
- 母親の死亡後に子どもへ承継
という設計が検討されます。
ただし、遺留分、信託法上の期間制限、税務、相続人間の公平性など、複数の問題を確認する必要があります。
メリット5 裁判所への定期報告が原則不要
一般的な家族信託では、成年後見制度のように、家庭裁判所へ毎年財産状況を報告する仕組みではありません。
その分、家族の希望に合わせた柔軟な管理が可能です。
ただし、裁判所が監督しないからこそ、受託者による不適切な管理を防ぐ仕組みが必要です。
第6章 家族信託のデメリットと注意点
デメリット1 受託者の負担が大きい
受託者は、信託財産を自分の財産と分けて管理しなければなりません。
具体的には、
- 信託専用口座の管理
- 収入・支出の記録
- 領収書や契約書の保管
- 不動産収入の管理
- 受益者への報告
- 税務申告の確認
などが必要になります。
契約後、誰も管理方法を理解していないと、家族信託が機能しなくなる可能性があります。
デメリット2 家族間の争いが起きる可能性がある
長男だけが受託者になり、他の兄弟へ十分な説明がない場合、
「長男が親の財産を自由に使っているのではないか」
「財産の内容を見せてもらえない」
といった不信感が生じることがあります。
家族信託を成功させるには、契約書だけでなく、家族間の情報共有が重要です。
必要に応じて、
- 信託監督人
- 受益者代理人
- 帳簿の定期開示
- 重要な売却時の同意条項
などを検討します。
デメリット3 すべての金融機関が同じ対応ではない
信託口口座、信託専用口座、融資、不動産担保ローンなどへの対応は、金融機関によって異なります。
契約書を作成した後で、
「予定していた銀行では口座を開設できなかった」
「アパートローンのある不動産を信託できなかった」
という問題が起きる可能性があります。
必ず契約締結前に金融機関へ確認してください。
デメリット4 信託できない財産がある
すべての財産を自由に信託できるわけではありません。
たとえば、
- 年金受給権
- 一部の預金商品
- 農地
- 担保付き不動産
- 株式や有価証券
- 自社株
などは、法律、契約、金融機関、許認可の関係で個別の確認が必要です。
デメリット5 専門家の知識に差がある
家族信託は、信託法、不動産登記、税務、相続、成年後見など複数分野に関係します。
契約書のひな形へ名前を入れるだけでは、家族の状況に合った設計になりません。
特に、
- 受託者が先に死亡した場合
- 受託者が認知症になった場合
- 不動産売却後の資金管理
- 受益者死亡後の承継
- 受益権の評価
- 遺留分
- 税務申告
まで検討する必要があります。
デメリット6 契約しただけでは終わらない
家族信託は、契約締結後の運用が重要です。
不動産であれば登記、預金であれば口座準備、既存契約の変更、管理帳簿の作成などを行います。
契約後に財産を信託へ移していなければ、期待した効果が得られない可能性があります。
第7章 家族信託にかかる費用
家族信託の費用は、財産の種類や契約内容によって異なります。
主な費用は次のとおりです。
専門家への相談・設計費用
家族関係、財産、将来の希望を確認し、信託の内容を設計する費用です。
一律の公定価格はありません。
不動産の数、財産額、受益者の人数、承継設計の複雑さなどによって変わります。
契約書作成費用
信託契約書を作成する費用です。
司法書士や弁護士などへ依頼する場合、設計費用に含まれることもあります。
公正証書作成費用
信託契約は、必ず公正証書にしなければ成立しないというわけではありません。
ただし、本人の意思確認、契約内容の証明、金融機関への提示などを考慮して、公正証書にすることが一般的です。
公証人手数料は、契約内容や財産価額などによって異なります。
不動産登記費用
不動産を信託する場合は、所有権移転および信託の登記が必要です。
登録免許税、司法書士報酬、登記事項証明書などの実費がかかります。
税理士費用
収益不動産、受益者変更、委託者と受益者が異なる契約、受益権の承継など、税務上の検討が必要な場合は税理士費用が発生します。
信託税務は契約設計によって結果が変わるため、契約前の確認が重要です。
継続的な管理費用
受託者が家族で無報酬の場合もありますが、
- 信託監督人
- 受益者代理人
- 税理士
- 会計サポート
- 不動産管理会社
などを利用すると、継続費用が発生します。
第8章 家族信託を始める流れ
1.家族の状況を整理する
まず、次の内容を確認します。
- 本人の判断能力
- 家族構成
- 推定相続人
- 財産の種類と金額
- 不動産の利用状況
- 老人ホーム入居の可能性
- 誰が財産を管理できるか
- 本人が亡くなった後の希望
2.家族で話し合う
本人と受託者だけで契約を進めると、他の家族が後から不信感を持つことがあります。
少なくとも、
- 家族信託の目的
- 受託者を選んだ理由
- 信託する財産
- 財産の使用目的
- 報告方法
- 将来の承継先
を共有しておくことが大切です。
3.専門家へ相談する
家族信託が本当に必要かを確認します。
場合によっては、
- 遺言書
- 任意後見契約
- 財産管理委任契約
- 生前贈与
- 不動産売却
- 法定後見制度
の方が目的に合っていることもあります。
4.契約内容を設計する
主に次の内容を定めます。
- 信託目的
- 委託者
- 受託者
- 受益者
- 信託財産
- 受託者の権限
- 受託者の報告義務
- 後継受託者
- 受益者死亡後の取扱い
- 信託終了事由
- 残余財産の帰属先
5.金融機関・税務を確認する
契約前に、利用予定の金融機関が対応できるか確認します。
不動産ローンや担保がある場合は、金融機関の承諾が必要になる可能性があります。
税務上の問題も事前に確認します。
6.信託契約を締結する
本人の判断能力が十分なうちに契約します。
公正証書を利用する場合は、公証役場で本人の意思確認を受けます。
7.不動産登記や口座準備を行う
不動産を信託する場合は信託登記を行います。
金銭については、信託専用口座などを準備し、本人の財産と受託者個人の財産を分けて管理します。
8.信託を運用する
契約後は、受託者が帳簿を作成し、信託目的に従って管理します。
家族へ定期的に報告する仕組みを作っておくと、トラブル防止につながります。
第9章 老人ホーム入居・身元保証と家族信託
家族信託の相談では、財産管理だけでなく、老人ホーム入居や身元保証の問題が同時に発生することが少なくありません。
家族信託で老人ホーム費用を管理できる
信託した預貯金や、不動産の売却代金から、
- 入居一時金
- 月額利用料
- 介護費
- 医療費
- 日用品費
- 自宅の維持管理費
などを支払う設計が可能です。
家族信託だけでは入居契約を代理できないことがある
家族信託の受託者は、信託財産を管理する権限を持ちます。
しかし、老人ホーム入居契約や介護サービス契約について、本人の法定代理人になるわけではありません。
本人の判断能力が低下し、契約代理が必要な場合には、任意後見や法定後見を検討することになります。
身元保証人は別に必要
老人ホームや病院から、
- 身元保証人
- 連帯保証人
- 緊急連絡先
- 入退院支援
- 死亡時の引取り
を求められることがあります。
家族信託を行っても、これらを自動的に受託者が引き受けるわけではありません。
頼れる家族がいない場合や、家族が遠方に住んでいる場合は、身元保証サービスや生活支援を別に準備する必要があります。
第10章 家族信託が向いている人・向いていない人
家族信託が向いている可能性がある人
- 認知症になる前に財産管理を任せたい
- 不動産を複数所有している
- 将来、自宅を売却して老人ホーム費用に充てたい
- 収益不動産の管理を子どもへ引き継ぎたい
- 障害のある家族の生活費を長期間管理したい
- 相続後の財産承継を一定程度設計したい
- 信頼できる受託者候補がいる
家族信託が向いていない可能性がある人
- 信頼して財産を任せられる家族がいない
- 家族間の対立が激しい
- 財産が少なく管理が複雑ではない
- 主な悩みが身上保護や施設契約である
- 本人の判断能力がすでに大きく低下している
- 受託者が帳簿管理や手続きを継続できない
- 金融機関との調整が難しい財産が中心である
家族信託は、利用すれば必ず得になる制度ではありません。
目的に対して必要以上に複雑な仕組みを作ると、費用や家族の負担が増えてしまいます。
家族信託に関するよくある質問
家族信託は誰に頼めばよいですか?
契約設計、不動産登記、法律問題は司法書士や弁護士、税務は税理士など、それぞれの専門家が関係します。
一つの資格だけで、法律・登記・税務のすべてに対応できるとは限りません。
複数の専門家と連携できる相談先を選ぶことが大切です。
家族信託は自分で作れますか?
契約書を自分で作ること自体は不可能ではありません。
ただし、権限不足、税務上の問題、後継受託者の欠落、金融機関が対応できない契約などが生じる可能性があります。
長期間にわたり家族の財産を管理する契約であるため、専門家の確認を受けることをおすすめします。
家族信託をすれば相続税が安くなりますか?
家族信託をしただけで、当然に相続税が安くなるわけではありません。
家族信託の主な目的は財産管理と承継です。
税務上、受益者等課税信託では、信託財産やその収益・費用が受益者へ帰属するものとして扱われます。
具体的な課税関係は、委託者、受託者、受益者、受益権の承継方法によって異なります。
家族信託をすると贈与税がかかりますか?
委託者と受益者が同じ自益信託では、設定時に受益者が変わらないため、一般的には直ちに贈与したものと扱われない設計が多く用いられます。
ただし、委託者以外の人を受益者にする場合などは、贈与税の検討が必要になる可能性があります。
個別に税理士へ確認してください。
家族信託をすれば遺言書は不要ですか?
不要とは限りません。
家族信託で定められるのは主に信託財産の承継です。
信託していない財産や、祭祀、遺言執行などについては、遺言書を併用した方がよい場合があります。
家族信託をすれば成年後見は絶対に不要ですか?
絶対に不要になるわけではありません。
本人の身上保護、施設入居契約、信託していない財産の管理、本人が締結した契約の取消しなどが必要になれば、成年後見制度の利用を検討する場合があります。
受託者が先に亡くなったらどうなりますか?
後継受託者を契約で定めておくことが重要です。
受託者が死亡、認知症、病気などで職務を続けられない場合に備え、第二受託者や選任方法を決めておきます。
受託者が財産を使い込んだらどうなりますか?
受託者は信託目的に従い、善良な管理者として財産を管理する義務を負います。
使い込みや不正があれば、損失の補填や法的責任を問われる可能性があります。
予防策として、信託監督人、受益者代理人、定期報告、複数人のチェック体制などを検討します。
住宅ローンが残っていても家族信託できますか?
担保権やローン契約がある場合、金融機関との調整が必要です。
金融機関の承諾なく名義変更を行うと、契約上の問題が生じる可能性があります。
必ず事前に金融機関へ確認してください。
認知症と診断された後でも家族信託できますか?
診断名だけで判断することはできません。
本人が契約内容を理解し、自分の意思で契約できるかが重要です。
判断能力を確認できない場合は契約できません。
家族信託契約は途中で変更できますか?
信託契約の定めや、委託者・受託者・受益者の状況によって異なります。
誰の同意で変更できるかを、契約時に明確にしておく必要があります。
家族信託を終了することはできますか?
契約で定めた終了事由が発生した場合などに終了します。
終了後、信託財産を誰へ帰属させるかも契約で定めます。
まとめ|家族信託は財産管理の選択肢の一つ
家族信託とは、本人が元気なうちに、預貯金や不動産などの財産を信頼できる家族へ託し、定めた目的に従って管理・運用・処分・承継してもらう仕組みです。
認知症対策として家族信託を活用すると、
- 判断能力が低下した後も信託財産を管理しやすい
- 老人ホーム費用に備えて自宅を売却できるように設計できる
- 収益不動産の管理を家族へ引き継げる
- 本人の希望に沿った財産承継を検討できる
といったメリットがあります。
一方で、家族信託だけでは、
- 老人ホームへの入居契約
- 介護サービス契約
- 身元保証
- 医療同意
- 不利益な契約の取消し
- 葬儀や納骨などの死後事務
まで対応できるとは限りません。
また、受託者の負担、金融機関との調整、税務、家族間の対立なども考慮する必要があります。
大切なのは、最初から「家族信託を利用する」と決めることではありません。
まず、
- 将来何に困る可能性があるのか
- 誰が財産を管理するのか
- 老人ホーム費用をどう確保するのか
- 不動産を残すのか売却するのか
- 身元保証や死後事務を誰へ依頼するのか
- 相続後に財産をどう引き継ぐのか
を整理し、そのうえで家族信託、任意後見、成年後見、遺言、身元保証、死後事務委任などを組み合わせることが重要です。
ご相談|高齢者の将来をワンストップで整理します
一般社団法人東京都社会福祉支援センターでは、高齢者ご本人とご家族からの幅広いご相談を承っています。
- 家族信託・財産管理
- 成年後見制度
- 老人ホーム紹介
- 身元保証・身元引受
- 認知症の親の不動産売却
- 相続相談
- 遺言
- 死後事務
- 空き家や残置物の整理
「家族信託が必要なのか分からない」
「家族信託と成年後見のどちらが合っているの?」
「老人ホームへの入居と実家の売却を一緒に相談したい」
「身寄りがなく、身元保証や死後事務も準備したい」
このような段階からでもご相談いただけます。
ご本人の判断能力、財産、家族関係、住まい、将来の希望を整理し、必要な支援を一緒に考えていきます。
※家族信託の契約、税務、不動産登記、相続、成年後見などの具体的な判断については、弁護士、司法書士、税理士等の専門家と連携して確認する必要があります。
当団体は東京都指定居住支援法人です
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